あぁ、たしか蝉が必要だときいたことがあります。

2009.08.05

film7209

本を読んでいたら、
ぷーんとチョコレートの甘ったるい香りがしてきた。
いつまでたってもその匂いが鼻につくので、
その根源を探ってみようと、本から顔を上げてあたりを見回すその必要もなく、
隣に座った小学校低学年男子がADIDASのカバンの中から
クランキーを取り出して、丁寧にぽきぽきと小分けにしては
口元に運んでゆくのだった。
人差し指にべったりついたチョコレートをなめ回す様を、
いつ食べ終わるのかとじっくり横向きにみていたのだけれど、
ふと彼の手元のADIDASのカバンの中にカントリーマームの山をみつけて、
あきらめた。

"歩くのもけっこうたいへんですねぇ"
と70代男性に唐突に声をかけられる。
"おきをつけて"
とわたしはいう。
わたしが歩きの達人であることを見破っていたにちがいない。

ランドセルをしょった挙動不審な小学校低学年男子は、
右手を前に差し出しながら歩いている。
右手の上には駅前で配られるようなたぐいのポケットティッシュがのっている。
ポケットティッシュの上には葉っぱがいちまいのっている。
彼はとても不安げそうにきょろきょろまわりをみながら、
とてもバランスが悪そうに階段をのぼっていく。
わたしは先回りをして彼の前をのぼっていく。
わたしは後ろを向きながら階段をのぼっていく。
はっぱの上にはカタツムリがのっている。
彼は電車にのりこんで地べたにすわりこんだかとおもうと、
いままで大事そうに運んできたカタツムリを電車の中に解放する。
彼はとても不安げにカタツムリを見守っている。